自称脱税のプロ 謎のおばさん2人組に遭遇した話
これから話すのは、4年ほど前に電車内で謎のおばさん2人組に遭遇したときの出来事です。正確な日にちと時間は覚えておりません。謎のおばさん2人組がどの駅から乗車してきたのかも忘れました。ただ、容姿と言動には特徴がありすぎて今でも覚えております。
私は某国家資格取得のため、資格の学校新宿校に通っていました。通学には西日暮里から新宿まで山手線を使い、電車内ではテキストを広げ理論の暗記に励んでいました。季節は冬か春、天気のいい日の朝だったと思います。
電車内で理論暗記に没頭しておりましたが、とある駅で乗車した誰かが私の隣の席に座りました。席が窮屈になったので、チラリととなりを確認したところ、私の隣とその隣の乗客は似たような服装をしておりました。二人とも黒色の長いロングダウンコートにサングラスと帽子をかぶっていて、顔は色白だったと思います。帽子はどちらかがピンクでどちらかがふわふわ素材の黒だったような気がしますが、記憶違いかもしれません。
視線を理論テキストに戻し、2~3分経過したころだったと思います。私の隣に座ったロングコートの方がおもむろに私に話しかけてきました。
「あなた、学生さん?」
声から女性であることがわかりました。私は顔を上げ、声の主のほうを向いたところ、相手の顔が予想以上に近いところにありぎょっとしました。同時に、色白に見えた顔が厚い化粧であることもわかりました。年齢は50より上の印象です。
少し引き気味に「違いますよ、資格の勉強のために学校に通っているだけです」と軽く説明を終え、テキストに目をもどそうとしましたが、その女性は矢継ぎ早に質問をしてきました。
「真面目ねぇ~、あなたもやっぱりアレでしょ?」
アレが何を意味するのかよくわかりませんでした。しかし、考える間もなく一方的に会話が続きます。
「今日はね、うちの娘が大学院を卒業したこと学会の本部に報告に行くのよ」
(学会・・・?)
よくわかりませんでしたが、「卒業おめでとうございます」と一言述べて理論の暗記に戻ろうとしました。
「税のことなら、この人すごく詳しいのよ」
話しかけてきたのはもう一人のロングダウンコートの方でした。こちらの方も声から女性であることがわかりました。顔は厚化粧で色白を装っておりましたが、年齢は30~40ぐらいだったのではないかと思います。
「ああ、そうなんですか。それはすごいですね。」と相槌をうったところ、会話が思わぬ展開になりました。
「この人、悪い事ばっかりしててねぇ。脱税のプロなのよ。」
「うふふ。昔から長い事しているからね。」
「でも、ばれたことあったよね。」
「ばれても払わないのよ。逮捕されたこともないからね。」
などと自慢げに談笑するおばさん2人組に、電車内の視線が集まっていたように思えます。
(私は違う、仲間じゃないぞ。)
口に出しては言えず、心の中で叫びました。そんな私の気持ちとは裏腹に、さらに会話は続きました。
「あなたも、税で困ったら相談しなさいよ。」
「本部に行く前に寄るところあるから、ここで降りるね。」
「がんばってね。」
ちょうど電車が新大久保駅に到着。二人組はこの駅で下車し、私の視界から消えていきました。私は同類だと思われたということでしょうか。とても不快な時間をすごしました。
そして、ふと思いました。
「あの二人組、ただの犯罪者じゃないか!」
と。