人生のネタ帳

私生活における発見や意見、感想等の雑記

犬と人とトラウマ

犬が苦手になった理由

私は犬がちょっぴり苦手です。

というのも、幼少期にとんでもない目にあったから。

その体験談を端折ってお話ししたいと思います。

 

 

十数年も前の話です。

当時住んでいた家の近所にある男が住んでいました。

飼っている茶色の中型犬を溺愛しており、

飼い犬以外には全く関心を寄せない、

ひどく冷めた印象の男でした。

 

彼が散歩に出かけるときの風貌は特徴的で、

紺色のジャンパーとズボンに目深にかぶったキャップといういでたちは

俺にかまうな、あるいはじろじろと見るな、

といった意思表示だったのかもしれません。

 

そんな薄気味悪い雰囲気を持った男ですから

近所のお母さん方の井戸端会議でも

たびたび話題にあがっていたようです。

そして、その噂話は、ほどなく子供の耳にも入ってきました。

 

近所の放火の犯人はあの人じゃないか、とか

お隣さんの犬が棍棒のようなもので殴られた、とか

あの家にパトカーが来たけど逮捕されなかった、とか。

 

穏やかじゃない噂話の内容に子供ながら恐怖を感じてはいましたが

そんなことは、いつしか忘れてしまいました。

 

 

事件当日

ある晩秋の日、

すっかり乾いた田んぼで

私は友人数名とバク転の練習をしたり

秘密基地の場所探しをしたりと

田舎の小学生らしい遊びに夢中になっていました。

 

気がつけば日が落ちはじめていました。

それじゃそろそろ帰ろうか

そんな話をし始めたころだったかと思います。

 

友人の一人が田んぼのあぜ道の少し遠くを見つめながら言いました。

「あれ・・・。」

彼の見ている方にふと目を向けると、

一人の男と犬がこちらを見て立っているのが見えました。

 

紺色のジャンパーとズボン、深くかぶったキャップ

そして、茶色の犬

 

少し前に耳にした噂話を思い出し、

「あっ!」と思ったそのとき、

別のリーダー格の友人がぼそっとつぶやきました。

「・・・やべぇよ」

 

 

その友人のつぶやきと同時だったでしょうか。

件の男がゆっくりと動きだしました。

連れている犬から散歩用のリードを外そうとしているように見えました。

ひょっとして、私たちを襲わせようとしているのではないか。

 

 

友人が叫んだのは、私がそう思った瞬間でした。

 

 

「噛まれても何もするな・・・」

 

 

「にげろーーー!!!」

 

 

 

私たちは一斉に駆け出しました。

一直線に家を目指したいところですが

家への最短距離はその男により塞がれていました。

仕方なしに私たちが向かったのは

家と反対方向にある廃材置き場。

田んぼに足を取られながらも必死に走りました。

 

 

すぐ後ろから迫りくる犬。

その恐怖に負けじと頑張って走る私たち。

ところが、私は足がもつれて転んでしまいました。

 

そこに飛びかかってふくらはぎに食らいつく犬。

犬の牙が私の足に食い込みました。

 

「痛っ―」

 

私が捕まったことで、足を止めた友人は遠巻きに

「絶対に何もするなよ!」

と叫んでいたような気がします。

 

しかし、噛まれて痛い思いをしているのは私。

 

手で犬の顔をたたいて、

土を握って投げつけて

何とかもがいて一度は離れ、

そしてまた噛みつかれて地面に倒されて・・・。

 

犬との攻防の最中、

一瞬の隙をついて犬を蹴っ飛ばし、

奇跡的に追い払うことに成功しました。

 

犬が飼い主の下へ戻っていくのを確認してから

友人たちのもとへ急ぎました。

足は痛いけど、歩けなくはない。

必死の抵抗のおかげか、どうやら軽症で済んだ様子。

気がつけば犬と男の姿は消えており、

僕は助かったんだ、とほっと安堵の胸をなでおろしました。

 

 

話はまだ終わらない

しかし喜びも束の間、

リーダー格の友人は顔を引きつらせながら私にこう言いました。

「何もするなって言ったべ!まじやべーよ。」

 

何がどうヤバいのか、その時は全く分かりませんでしたし

これ以上やばい状況になるなんて思ってもいませんでした。

 

「見つかったら殺されちゃうから

 廃材置き場を通って国道に出て

 遠回りして家に帰ろうぜ。」

 

私たちは、すぐに彼の指示通り廃材置き場に身を潜めることに。

すると程なく件の男が現れました。

 

「なんか持ってるよ。」

「バットじゃね?」

 

犬の代わりにバットを持ってきたようで

草むらの段ボールをバットで叩いたり、

石を投げたりしているのがぼんやりと見えました。

 

「ほらな、だから言っただろ」

 

そうこうしているうちに、男はこちらに向かって移動を開始。

私たちの恐怖は最高潮に。

 

バラバラになって逃げる作戦を誰かが提案しましたが

その案はリーダー格の友人がすぐ却下。

 

「バラバラで逃げたら誰かが捕まる。

捕まったら殺されるから、

みんなでまとまって

隠れながら逃げたほうがいい。」

 

これには全員賛成。

リーダー格の友人に従い、

全員無事に家に帰ろうと誓いました。

こうして命がけのかくれんぼが始まったのです。

 

 

 

積まれた廃タイヤの中に隠れたり、

廃タイヤの山を一人ずつ静かに登ったり、

枯草の茂みに身を潜めたり、

木の陰に隠れたり。

 

 

 

廃タイヤの山では

私が足を滑らせたせいで

男に見つかりそうになりましたが、

別の場所に石を投げるなど友人の機転もあり

ギリギリ危機回避。

 

指示が的確だったこともあり

何とか全員無事に帰ることができました。

 

 

そうそう、この日私たちはルールをつくりました。

それは、

・今日来ていた服はもう着ない

・親に話さない

 (あの男は何故か警察に捕まらない説)

 

 

以上でこの話は終わりです。

今思うと、犬も怖いですが、やはり人間のほうが遥かに怖い。